動かない陽気は邪気 その2

視点を変えて生体における正常な熱はどういうものなのか整理します。

基本的に筋肉組織(内臓を含む)で代謝が行われたときに多くの熱が発生して、身体を温め、各種消化酵素や腸内細菌、免疫系が働きやすい温度を作り出しています。最適温度はそれぞればらつきがあるわけですが、熱をうまく血液・体液に乗せて循環と放射・発散あるいは蓄熱によって調整しています。循環はほぼ血流、放射は赤外線として熱を出しています。発散は呼吸や皮膚からの発汗作用、大小便による解熱作用です。蓄熱というのは各細胞単位に区切られた水分が熱を蓄えているもの、とここでは定義しておきます。


 代謝によって産生された熱の多くは(赤外線などの)放射によって失われていきますが、残りは循環によって各所に熱を分散し、その先で発散して調整しているわけです。

 この循環は、温⇔冷の平均化をしている様に思えますが実際は違います。自律神経系を主体とする調節システムによって腹腔内(胴体・お腹の中)の温度維持を優先しています。したがって手足がキンキンに冷えたままだと、手足の血管は収縮して”冷え”がお腹に入らないようにしています。もしこの状態で急激に身体を温めた場合、胴体にとって余分の熱が手足に直ぐには循環しません。すると腹腔内の体温上昇が加速して、耐久限度を越えるリスクが出てきます。ここでいう耐久限度というのは極論タンパク質変性が起きる温度で、人の中心温度でいうと42℃です。脇の下で計測した場合40℃を越えたあたりで中心温度が42℃前後になります。そして中心が44~45℃になると死亡するとされています。

ざっくりいうと生卵が温泉卵化するという感じです。いわゆる熱中症の中等~重症にあたります。熱中症までいくと手足も熱くなっていますが、順番的には胴体内部にまず熱がこもり、そこから溢れた熱が手足にいく感じです。

 体の循環システムは保温寄りの機能で、急激な温度変化に弱いといえます。自然放射・発散による解熱作用が間に合わなければ、体調を崩す原因になります。すなわち熱の邪に侵されたとなります。この場合も胴体の許容量を越えた熱が解熱・放熱が間に合わず停滞した結果の邪です。
 以上、停滞した陽気(栄養?)は時間経過で邪気になるというわけです。

他にもこんな例:
 例えば保温機能の強い衣服を着たままストーブで体を温めた場合などです。ヒートテックシャツ1枚程度では問題なさそうに思いますが、お風呂上りに下着と上着セットでかつ床暖房の部屋にいるとものの数分で気分が悪くなったことがあります。
 また、当院の患者さん(当時確か80歳)で、真冬に脱水と発熱で体調不良を訴えてこられた方がおられますが、原因が特殊な保温素材のチョッキとズボンを常時着用されてることでした。少し触らしてもらいましたが、内側の熱をほとんど外に逃がさない感じで、逃げ場を失った熱が体に限界近くまで蓄積したと推測しました。

動かない陽気は邪気 その1

1.流れから取り残された栄養は代謝ののち老廃物と入れ替わる
2.老廃物は毒のようなもの。炎症の原因になることも
3.急激に or 持続的に温めすぎると、代謝の過剰によって1~2と同様になる


動かない陽気とは?

東洋医学では気の流れが悪くなり、そこに一部の陽気が取り残される、と説明されることがあります。この陽気はその局所に悪さをする、というのです。

要するに血流が悪いのを想像すると分かり易いでしょう。取り残された栄養はその場で代謝に使われます。生きていますから。そして生きている生物は代謝の結果として老廃物を産出します。老廃物は少量が血中にある分には問題ありませんが、血流の悪いところでは、つまるところ濃ゆくなる。これは生体にとって毒物に近いものです。あまり濃ゆいと、その場の細胞は壊れて炎症を起こします。実際に熱が発生しますから、流れから取り残された陽気だけどやがて熱(の邪気)になるというわけです。

 長くなりそうなので ~2につづく~ とします

改稿・修正:2025/5/18